8月の。

8月に観たのは『オン・ザ・ロード』『アトミック・カフェ』『アンチヴァイラル』『アナザーワールド』の4本。

4本中3本が『あ』で始まるのはただの偶然です。並べてみてちょと驚いた。

●『オン・ザ・ロード

父の死後スランプに陥って居た若き作家サル・パラダイスは天然の人たらしにして愛すべき奔放なダメ人間ディーンと出会い、彼に導かれるように旅の人生に足を踏み入れる。様々な出会いと別れを伴いつつメリケン中を旅し、そして彼と袂を分かつまでの物語。

クスリとセックスにまみれた鮮烈な青春のバカ騒ぎと、其処から決別するコトへの寂しさと懐かしみ。その中に凛と1本、細く強く前へと向かう直線。それは一つの作品となって結晶化する。そんな印象。

ディーンがホンットにダメなヤツなのよ。享楽的でだらしない。責任やメンドいコトからは全部逃げ出す。旅先で赤痢に倒れた主人公をあっさり見捨てて置いてったりする。サイテイだよね。でも魅力的。男女隔てなく魅了する本当ハンパない人たらし。ちょと触れるだけで赤ちゃんも泣き止んだりするのよ。

て云うかディーンに限らずね。登場人物みんな個性的で魅力的なのです。端役に至るまでブラボゥ。

「虹の果てに黄金はない。でもそれを知ることで自由になれる」て云うカーロの言葉。旅に浮かれる状態は実は自由ではないと云う示唆。コレに気付いた人々は乱痴気騒ぎから降りてゆくのだよね。

刹那的なエネルギィ沸き立つ宇宙を離れてサルもメリールウも、そして彼らに去られたディーンもまた自分の人生を歩んでゆく。それはとてもよいコトなんだけどでも最後、ディーンにもう少し優しくしたげてもいいじゃん。て思っちゃうのは僕自身がダメ人間側だからなんだよねきっと判っているんだよ。

こっからは完全な想像なんだけど多分、ディーンて作者が手綱を緩めると何処までもぶっ飛んでって仕舞うキャラだったんじゃないかと。ストーリィを牽引して呉れる一方、制御に窮したりもするキャラ。終盤に向けて彼が窮屈そうに見えても来るのはその『手綱』なのかもね。やホントに勝手な妄想だけど。

ヴィルヘルム・ライヒのオルゴン理論が出て来たな。メリケンに於けるあの時代の象徴ではあるのかな。あーあとスティーヴ・ブシェミが居ました。出演時間は短いけどまたキョーレツな役でした。よ。

●『アトミック・カフェ

最初の核実験から冷戦を経て核が生活の一部になるまでを、ニュースや宣伝映画、啓蒙映像なんかの政府公用フィルムの羅列『のみ』で追う特殊な作品。

ネタとなった映像群はその性質上、基本的に『安心させる』方へのベクトルで作られて居るので、牧歌的と云うかお花畑と云うか、だから一歩引いた立場から見ると非常にブラックに、滑稽に映るのね。

例えば『核兵器が飛来したらこう対処しましょう』て啓蒙映像。コミカルな亀のアニメーションと共に『ピカッと来たらパッと伏せる』てスローガンを連呼し、わたわたと隠れる人々を延々と映し出す。今から見るとおかしいだろ滑稽だろ。そんなんで何とかなるワケないよな。でもそれを笑っては居られないんだぜ。現在を生きる我々も『それくらいしか出来るコトはない』んだぜ。ちっとも笑えないけど、ちっとも笑えないから、だから我々はそれを笑う他ないんだぜ。て云うブラックジョークの構造論。

終戦直後くらいのニュースフィルム。『原爆が出来たので我々は使ってみました。神の御意志に沿うよう使ってゆきましょう』てコトバが、重い。それがどうしようもない理想論であるコトを僕たちは知って居るから。そして、フィルム内の彼らがその理想を信じていたコトをひしひしと感じるから。

●『アンチヴァイラル

セレブの身体から取り出したウィルスの感染性だけを除去して投与するのがブームとなった社会。ウィルスを扱う会社の従業員シドは商品をこっそり自分に投与して持ち出し精製して横流しして居たが、投与したウィルスの持ち主の死亡ニウスが流れ……的なお話。

セレブと同じ病気に掛かれる。直接伝染された気分を味わえ、ヒトによってはセレブとの一体感、セレブに成り代わった高揚感まで得られる、そんなコンセプトの商品。『真の美を求めるあなたに』てキャッチフレーズで美人から取り出した単純ヘルペスウィルスとかを売りさばく、まぁ狂った社会。尤もセレブ側も自発的に売ってるのだし、需要と供給の双方が納得して釣り合ってれば別にいいのだろうけどね。

 て云うガジェットはまぁまぁ魅力的でしたのだけれど、ウィルスの情報を人間の歪んだ『顔』として抽出し、その表情を弄るコトで感染性を無くすとかね、でも其処で起きるアレコレが結局『企業間の陰謀』てのがちょと、なぁ……て感じではありました。もうちょとこう、何かなかったのかなぁ。とはね、思う。主人公の行為がちょとブラッド・ミュージックぽかったから壮大さを期待して仕舞ったのかしらん。

あーその主人公。スタイリッシュでかつちょとナヨナヨしてて気持ち悪い、て云う微妙なバランスで其処は良かった。ラストも生理的には受け入れがたいけどキショくてなかなか良かったと思います。以上。

●『アナザーワールド

ストーリーはえー、まぁまぁ鏡の国のアリス。以上。

んー個人的にはもうちょとはっちゃけててもよかったかな−。原作の忠実な映像化、て云うコンセプトでしたのでしょうけど、多分、でもそれにしても綺麗に無難に纏めすぎた、気がする。ちょとだけ、本当にほんのちょっぴりだけ綺麗なヤン・シュヴァンクマイエルぽい場面もあったりしただけに残念。

ハッチャケて云えばいっこだけ、アリスを『娘に絵本を読む母親』にしてたのだけど、あそこまで原作に忠実でありながら此処だけ改変した意味はよく判らなかったな。其処は素直に娘の方でいいじゃんって思う。まぁ名前が冠されてたトコを見ると最初からあの女優さんありきの企画だったのかもね。でも『娘』て云うにはちょと年齢もイメェジも……て云うメタな理由だったのかも知らん。よく判らんけどさ。

そのアリス。ケイト・ベッキンセール。名前も顔も覚えてなかったけどヴァン・ヘルシングのヒロインか。あろうコトか主人公に一撃で撲殺された。思い出した。アト白の騎士がイアン・ホルムだった。

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月間賞は『オン・ザ・ロード』。強い印象を残して呉れました。